鶴来という町:菊姫の里
2010年09月26日
石川県白山市鶴来(つるぎ)。
この町に古くから鎮座する金劔宮(きんけんぐう)のHPによると、江戸時代元禄の頃まではズバリと劔(剣)という文字が使われていたそうです。
ずいぶん以前この町をはじめて訪ねた時、
山際の街道筋に寄り添うように並ぶ古い町並みから少し離れたとたん、
都市化されていないから空の広い扇状地の独特な景観と,
白青色に荒々しく流れる手取川(てどりがわ)に衝撃を受けました。
住む人にとっては当たり前の風景でも、
旅行者にとっては、
波打ち際に立ち、足下の砂がズズッとさらわれていくような不安感に似ていました。
地図を見ると一目瞭然ですが、
ここ手取川扇状地と海辺には、縦横に無数の水路、澪(みお)が張り巡らされています。
本流も何度もその流れを変えたそうです。
今夏久しぶりに訪問しました。
あの時の不安感(それゆえの吸引力)は薄れました。
白山市じたいが金沢のベッドタウンとして発展をとげつつあることも一因でしょうが、
私が各地でまだ開発されていない扇状地をたくさん見てきて、
慣れてしまったせいだと思います。
奈良県葛城山麓やバリ島では何かしら人の手が加わっていてさほど荒々しくは感じないのですが、
スイスアルプスや屋久島や西表島では、扇状地の土砂ががそのままの形で残っていて、荒涼としています。
また琵琶湖西岸の安曇川扇状地では田畑も広がっているのですが、茫漠とした空の広さが印象的でした。
ですから手取川扇状地の印象は今回ずいぶんマイルドになったのですけれど、
しかしそれでもまだ消えない寄る辺の無さは、
扇状地という野生の地形が与えるダイナミックさ、つまり、
今も刻々と砂を石を詰まらせてははぎとる川水という、
自然の力を感じとってしまうせいでしょう。
さて、
そういうわけで相変わらず私を惹き付ける手取川扇状地ですが、
その扇の要にあたる地点に鶴来の集落があります。
冒頭の金劔宮(古名は劔宮:つるぎのみや)は神社の由緒によれば崇神期の創建とか。
ここから2㌔ほど川沿いに遡ると、(古来の社地からわずかに移動しましたが)「白山比咩(しらやまひめ)神社」があって、
まるで白山から降りてきた白山媛の護衛神としてこの劔宮が立地しているように見えます。
また白山市周辺は、扇状地特有の伏流水にも恵まれていますから、
「手取川」を産む吉田酒造、「萬歳楽」の小堀酒造、そして「菊姫」の菊姫酒造など、名だたる銘酒酒造蔵がずらりと並んでいます。
どの酒も良い酒ですが、特に菊姫の山廃純米は、牛肉喰いだった私には衝撃の出会いとなった酒でした。
日本料理や魚介類には(たとえフレンチでも)日本酒が一番合うと感じていた私ですが、
この酸味のある強い酒とビーフステーキの相性は、私の日本酒好きを決定的にしました。
前回鶴来の町を訪れたときには、ですからなにはともあれとこの酒蔵に立ち寄りました。
休日なので年配の主人が一人で店頭に座っておられ、
大阪から来たとわかると、それはもう親切に、しかし訥々と酒の話をしてくださいました。
それは人見知りだった私にとって、その時間を丸ごと額縁に入れて飾っておきたくなる体験でした。
今回も菊姫酒造を訪ねてみました。
ずいぶん大きく立派な蔵が新築されていました。
老主人はもう店頭に座っておられませんでした。
最近味のレベルが落ちたとか言う意味ではなく、
これからもあのお酒への愛情を保って、醸造していただきたいと、心からエールを送ります。
もう一つの変化は、北陸鉄道石川線の鶴来〜加賀一の宮の間が廃線になっていたことです。
鶴来より以北の路線の存続も危ぶまれていると聞きました。
日本中の主な町には鉄道が通っていたあの古いゆったりした旅の形を、
今の若い人々はもう味わえなくなってきているのだなと、
ことの善悪はさておき、少々切なくなる思いを改めて感じました。
もちろん白山比咩神社にも行きました。
けれどとてもてごたえを感じる神社ですので、
そのことについては「無国籍人」ブログでいずれ報告するつもりです。
なお、菊姫の由来は菊理媛。
白山比咩の別名との説もある、謎の神です。
Posted by gadogadojp at 18:30│Comments(0)
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