羽曳野「釜竹(かまちく)」健在

2011年05月01日

2014.3、閉店されました。
残念ですが、店主平岡さん、ここまでよくふんばっていただいた、とも思います。
人生で一番好きなうどんに感謝します。



羽曳野「釜竹(かまちく)」健在



羽曳野「釜竹(かまちく)」健在





4月22日
午前9時50分、
早めに着いた私は、まだ清掃中の店内に入って待つようにすすめられ、
これに甘える。

店頭で販売されている鰹節を衝動買いしたいが、
削る道具が無いので我慢する。
冷蔵庫にはよだれが出そうな旨酒が並んでいるが、
あ、「十四代」まで並んで呼んでいるが、
車で来ているので我慢しなければならないか?
我慢した。

店主や女将の支度を見て楽しむ。
カツオだしの香りが一瞬店内に押し寄せる。
やがて麺をトントンと切るなつかしい音が聞こえる。
あれは私の麺だ。

午前10時20分。
青ネギと天かすとおろし生姜と七味がテーブルに運ばれてきた。
うどんの薬味だ。
ネギをつまんで食べてみたくなる衝動に駆られるが我慢する。

午前10時32分。
大きなとっくりに入ったツユが運ばれてくる。
器にツユや薬味を入れて準備しろという合図だ。
ネギと天かすだけを入れて準備を済ませたツユを飲みたくなるが我慢する。

午前10時33分。
湯を満たした中に、美しい麺が整然と浮かんで見える鉢が運ばれてくる。
湯気が立ちすぎない絶妙の温度。
釜揚げうどんだ。もう我慢しなくていい。

まずうどんだけを一本食べてみる。
釜揚げなのにしっかりした強さを感じる麺だが、
それよりも内頬を撫でる柔らかい感触がたまらない。

ツユにつけてすすっていく。
口腔が複雑な香りに充たされる。
半分食べたら次は生姜も入れてすすっていく。
香りはさらに複雑になる。
しかし麺はしっかりとこれを受けとめる。
あわてるな焦るなと自分に言い聞かせているのだが、
ついつい急いでしまう。
何本も一度に取りすぎて、一度に呑み込めなくなる。
でも十年ぶりだから仕方ない。

食べ終わる。
ツユをいったん飲み干す。

午前10時43分。
細打のざるうどんが運ばれてくる。
回転早々の客は私を含めて二人だけだから、絶好のタイミングで運ばれてくる。
ツユを入れる。

麺のあまりの美しさについ「きれいですね」と女将に声をかけてしまう。
太打の麺もあるのだが、
たおやかさでは細打ち。

やはり一本はそのままでいただく。
麺それ自体の味の濃さは釜揚げよりもざるに一層感じる。
美味過ぎて、すべての麺をツユにつけずに食べてしまいたくなるが我慢する。
あと二三本だけで我慢する。

薬味を入れないツユで食べる。
ネギだけを入れて食べる。
生姜を加えて食べる。
以前はこんなに一回の食事でいろいろ試さなかったが、
十年ぶりだから仕方ない。

釜揚げもざるも普通盛りにしたことを後悔する。

ここは「釜竹」(かまちく)
羽曳野(はびきの)市のうどんの名店だ。



以下わたくしgadogadoの思い出話が長々と続きます。


羽曳野「釜竹(かまちく)」健在


羽曳野「釜竹(かまちく)」健在


羽曳野「釜竹(かまちく)」健在


羽曳野「釜竹(かまちく)」健在



わたしとうどん、そして「釜竹」


gadogadoは根っからの蕎麦好き。
うどんには執着が乏しかったのですが、

神戸、西宮、東京、
と二十歳過ぎまでさすらった街では、
おいしいうどんと会えなかっただけだということに、
大阪で暮らし始めて気がつきました。

その目を開いてくれた店が、
「本舗松葉屋」(現「うさみ亭マツバヤ 」)や「道頓堀今井」のきつねうどんでした。

子供の頃、唯一の家事手伝いが鰹節削りだった私は、
しっかり黴びて枯れた鰹節の香りが大好きになって、
大阪うどんの出汁のぷ〜んという香りにやられてしまいました。

味醂だけでつくる実家の屠蘇(とそ)が大好きだった私は、
煮含めた油揚げの甘さにやられてしまいました。

それら文化複合体(笑)が快感として体内に刻み込まれてしまって、
今でもついついきつねばかり注文してしまいます、ふつうのうどん店では。

そして次のステップ。うどん道仕上げの段階。
うどんの麺の美味さに気付かせてくれる店が二軒現れました。

それが梅田の「はがくれ」であり、この羽曳野の「釜竹」でした。
カンスイ臭い中華麺それ自体の美味さなど感じたこともなく、
素麺は細くあっさりしすぎておいしさがわからず、
沖縄ソバなど食べたこともない昔の私には、
小麦麺それじたいが味わい深いことにようやく気がついてそれがうれしくて。

中でもこの「釜竹(かまちく)」さんでは、
そのまま食べたくなるうどん麺、
そのまま飲みたくなるツユ、薬味の美味しさは言うに及ばず、
うどんと酒との相性の良さまで学ばせていただきました。

そのころ勤務していた堺市はずれの金岡町の職場から羽曳野のこの店までは一走りといきませんが、
しかし昼の休憩を少しはみだせばなんとか往復できる距離でしたので、
年に2〜3回程度でしたが時々通うことができました。

午後が休める日には、みごとな品揃えの日本酒を一杯だけ。
たとえばやっぱり「義俠」か「磯自慢」、いえ「黒龍」「飛良喜」もいいな。
店の奥様の実家から運ばれた鰹節の削ったのだけがアテとして運ばれて、
これが美味しくてジンときたりして。

その後勤務地が遠くはなれ、
行きたい行きたいと念じながらご無沙汰をしているうちに十年が過ぎました。
その間にはいくつもの美味しいと言われる店に行きましたが、
主観的にはどこも「釜竹」に及びません。

讃岐はもちろんのこと、他の旅先で思いがけずおいしいうどんと出会うこともありましたが、
残念ながら昼休みにちょいと通うわけにはいきません。


でも、ことし三月三十一日に私はめでたく退職。
働くのをやめたわけではありませんし、収入は激減しましたが、
平日に二日の休みがとれるいい身分になりました。
これはつまり、金銭的なぜいたくはできないが、
人であふれていない店や映画館、近場の観光地に行けるぜいたくが手に入ったということ。
ではまず真っ先にどこに行って何を食べたいか、考えましたとも。
そこで
真っ先に思いついたのが、休日には行列必至の「釜竹」さんのうどんでした。
行くぞ。

けれど、この店にはあっという間の売り切れの懸念が。
実は一度妻同伴で休日の昼時に店の前までいったことがあるのですが、
私たちの直前で麺が売り切れ、あえなく撃沈したことがあるのです。

だからどうしても今日は食べたい。
平日だから仕事のある妻は伴えないけれど、
とにかく開店十時前に着くことを目標に一人で自宅を出発したのでした。
まさか平日のそのタイミングで売り切れはないでしょうから。

というわけで府道31号線を東に向かったわたしは、
野中寺の交差点を右折し、
店の駐車場をさがしたのでした。


羽曳野「釜竹(かまちく)」健在




冒頭のように無事食べ終えて、
ご主人平岡さんに「十年ぶりです。退職記念に来ました。美味しかった。」と告げると、
ご主人は私の風体を見て「外国に行っておられましたか」とおっしゃった後、
「変わってないでしょ」とちょっぴり誇らしげ。
私は思わず首をふりましたが、誤解されていないでしょうか。
私にとっては、十年前よりも美味しく感じましたので、すごいやという気持ちで首をふってしまったのです。

この十年間、
ちゃあんと泉州で地道に仕事をしていたのですが、
確かに中国雲南、ベトナム、タイ、台湾三回、インドネシア二回、などとアジアばかり海外旅行を積み重ねてきました。
アジアは麺のうまい地域です。
でもその中でも、この「釜竹」さんに代表される日本のうどん文化は完成度の高い食文化だと改めて実感しました。

ごちそうさま。
次回はぜひだれかが運転する車で訪れたいものです。


羽曳野「釜竹(かまちく)」健在






大阪府羽曳野市はびきの3-5-10 ベルデはびきの 1F
0729-56-1631
10:00~15:00(L.O.14:30) ※売り切れまで
月曜定休
駐車場あり ※現在は店からわずか南にあり

お急ぎの方には向かない店です。
うどん打ちはキツイ仕事。
ご主人、身体無理しすぎないで細く長く頼みます。



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Posted by gadogadojp at 09:20│Comments(0)グルメ
 
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